【09】高分子重合用触媒(その1)
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABSは5大汎用樹脂と呼ばれており、全世界で大量に使用されている。中でも最も多いのがポリエチレンであり、全世界で年間約6千万トンの需要がある。それに次ぐのがポリプロピレンであり、年間約4千万トンである。今回は需要の多い、ポリエチレンとポリプロピレンを中心とするポリオレフィンを製造するための触媒について述べる。
ポリエチレンは、高温高圧下(190℃程度、100〜400MPa)にてラジカル重合で生産される低密度ポリエチレン(LDPE)、比較的穏和な条件(60〜90℃、1〜3MPa)にて重合触媒を用いた配位アニオン重合で生産される高密度ポリエチレン(HDPE)、重合触媒を用いた配位アニオン重合でエチレンと1-ブテンや1-ヘキセンなどのα−オレフィンを共重合させる直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)に分類される。LDPEの製造には、過酸化物などのラジカル開始剤が使用される。HDPEには、Ziegler-Natta触媒と呼ばれる塩化チタンと有機アルミニウム化合物からなる触媒、Phillips触媒に代表される酸化クロムなどのクロム化合物からなる触媒、などが用いられる。LLDPEには、Ziegler-Natta触媒に加え、有機金属錯体のメタロセン触媒も使用されるようになってきている。ポリエチレンの製造に用いられる触媒では、Ziegler-Natta触媒が最もシェアが大きいが、クロム触媒やメタロセン触媒も得られるポリマーにそれぞれ特長があることから使い分けされている。
ポリプロピレンについては、共重合体も含めて、そのほとんどが塩化チタンと有機アルミニウム化合物からなるZiegler-Natta触媒によって製造されている。メタロセン触媒は均一な組成のポリマーを生成することから共重合用に期待されるが、ポリプロピレンの製造への使用はまだ限定的で、使用量はごくわずかである。ポリプロピレンの製造には、クロム触媒はまったく使用されない。
Ziegler-Natta触媒は、K. ZieglerとG. Nattaの大発見から、そう呼ばれている。1953年に、K. Zieglerは、四塩化チタン(TiCl4)と有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いて、それまでよりも非常に低い圧力で(常温常圧でも)、ポリエチレンを合成できることを発見した。さらに、1954年に、G. Nattaは、固体である三塩化チタン(TiCl3)と有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いて、高い立体規則性を有するポリプロピレンを合成した。ポリプロピレンの実用化のためには高い立体規則性が必要であったため、Nattaの発見も非常に重要なものであった。K. ZieglerとG. Nattaは、1963年に両名でノーベル賞を受賞している。現在では、塩化マグネシウムに塩化チタンを担持したタイプが主流となっている。
クロム触媒は、1951年にPhillips社によって発見されたものでありPhillips触媒とも呼ばれ、酸化クロムなどの無機クロム化合物や有機クロム錯体をシリカなどの担体に担持した触媒である。クロム触媒では得られるポリマーの分子量分布が広いという特長があり、主にボトルや自動車の燃料タンクなどのブロー成形の用途に使用されている。
Phillips触媒とZiegler触媒は、ほぼ同じ時期に発見され、50年の歴史を持ち、広く工業的に使用されてきた。
メタロセン触媒は、Kaminskyの貢献からKaminsky触媒と呼ばれることもある。Kaminskyらは、1980年に、有機金属錯体であるジルコノセンと、トリメチルアルミニウムと水との反応物であるメチルアルミノキサン(MAO)を触媒として、高活性にてポリエチレンを合成した。これを基本技術とするメタロセン触媒は、比較的新しい触媒であるが、有機金属錯体の分子構造、すなわち錯体の配位子構造により活性点をデザインすることができることもあり、多くの大学や企業で研究され、工業化された。メタロセン触媒では分子量や組成が非常に均一なポリマーを製造することができ、フィルムなどの用途に使用されている。
これらの触媒は、それぞれ開発が進められ、性能が向上し、石油化学工業において重要な役割を果たしてきた。現在でも、さらなる活性点の制御など、難易度の高い課題に取り組まれている。また、メタロセン以外の有機金属錯体の研究もなされており、長鎖分岐を持つ新規なポリマーの合成も可能になってきている。
(東邦キャタリスト)