【10】高分子重合用触媒(その2)
汎用樹脂の代表であるポリエチレン(PE)とポリプロピレン(PP)を最も多く製造しているのが、Ziegler-Natta触媒と呼ばれる触媒である。この触媒によって、PEの半分程度、PPについては99%以上が製造されていると推定される。今回は、このZiegler-Natta触媒について述べる。Ziegler-Natta触媒は、基本成分として塩化チタンと有機アルミニウム化合物(有機Al)からなる触媒であり、1953年のK. Zieglerによる四塩化チタン(TiCl4)と有機Alとからなる触媒を用いたPE合成方法の発見、1954年のG. Nattaによる三塩化チタン(TiCl3)と有機Alとからなる触媒を用いたPP合成方法の発見に始まったものである。活性点の構造や重合反応機構については、現在でもまだわかっていないことが多いが、有機Alによってアルキル化されたTiが活性点となり、Ti原子とC原子との間にエチレンやプロピレンが挿入するという重合反応機構が、広く受け入れられている。
これらの発見から1〜3年後には、Ziegler-Natta触媒によるPEおよびPPの製造が工業化された。この当時の触媒は、現在の触媒と比べれば、低い性能であった。その後、触媒の改良が進み、PEやPPの製造を飛躍的に効率化させることに貢献することとなった。さらに、PEやPPの品質が向上し、用途が拡大することにもつながった。全世界的に見れば、現在でもPEやPPの需要は、年間数%の伸びで拡大している。
工業化当初からのZiegler−Natta触媒の改良における触媒性能上のポイントは、主に活性の向上と、PPの立体規則性の向上であった。特に、PPが広く使用されるためには、強度、加工成形性などの品質レベルが高く、安価で生産できることが必要であった。そのためには、活性(固体触媒当たりのPP生産量)が高く、高い立体規則性のPPを提供できる高性能触媒の開発が求められた。活性が向上することにより、生成したPEやPPから触媒残渣を除去する工程が省略できた。PPの立体規則性が向上することにより、PPの品質低下をもたらす立体規則性の低いPPを除去する工程も必須ではなくなった。工業化当初は、エチレンやプロピレンを有機溶媒中で重合反応させる重合プロセス(スラリー法)であったが、触媒の改良もあり、エチレンやプロピレンの気相中で重合反応させるプロセス(気相法)や、PPの場合では、液体プロピレン中で重合反応させるプロセス(バルク法)が、より効率的な重合プロセスとして登場し、主流となった。
Ziegler−Natta触媒の改良アプローチのポイントは、Ti成分の担体への担持と電子供与体の活用であった。担体としては塩化マグネシウム(MgCl2)が特に優れており、塩化TiをMgCl2に担持した固体触媒成分と有機Alとからなる触媒は、それ以前より飛躍的に活性が向上した。このタイプの触媒は1960年代後半に開発されており、先ずPE用に適用された。ほぼ同時期に複数の会社から特許出願がなされたが、塩化TiのMgCl2への担持方法はそれぞれ異なるアプローチであり、それらはいずれも現在の多くのZiegler−Natta触媒の基盤技術となっている。MgCl2の効果については、活性点となるTi成分の高分散を可能としていることや、MgとTiとの相互作用が考えられている。
高活性化に比べて、PPの立体規則性の向上には、MgCl2担体の適用では、全く不充分であった。これに関しては、特定の電子供与体を用いた技術の登場で、PP用の高性能触媒が誕生することとなった。すなわち、MgCl2に塩化Tiと特定の電子供与体(内部ドナー)を担持した固体触媒成分と有機Alと特定の電子供与体(外部ドナー)からなる触媒である。1970年代に、電子供与体として特定のエステル化合物(例えば、安息香酸エチル)を用いた触媒が登場し、工業的にPPの製造に使用された。但し、このタイプは、活性の持続性などに問題があり、PPの立体規則性もまだ不充分であった。1980年代に、内部ドナーとして特定のジエステル化合物を、外部ドナーとしてケイ素化合物を用いた触媒が登場したことで決定的となった。この技術を基盤とした触媒が、PP製造用としての現在の主流である。このタイプの触媒に、各社様々な改良を加え、優れた触媒となった。1950年代に工業化された初期の触媒と比較すると、現在の触媒では、活性が50倍以上に向上し、PPの立体規則性は90%から97〜99%にまで向上した。
触媒に対する期待、要求は、活性や立体規則性だけではない。これまでも、生成する重合体の品質向上や、重合体製造における製造コスト低減などの観点から、改良されてきた。ここまで広く使用され、石油化学工業の中で重要な役割を担ってきたZiegler−Natta触媒であるが、重合体の組成の均一性を高めることや、重合体の分子量分布の広さなどについても改良が必要である。今後も、生産性や重合体の品質を一段と向上させ、さらには、これまでのPEやPPでは不可能であった用途への適用(例えば、染色性、ガスバリア性、難燃性などを付与したPP)を可能とする触媒に向けた、難易度の高い課題に取り組む努力が継続されるであろう。
(東邦キャタリスト)